どこでもない場所への紀行文 エルスウェア紀行が届けるのびやかな温度

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「エルスウェア紀行」という名前を聞いたことがあるだろうか?2026年2月にシングル「のびやかに地獄へ」でメジャーデビューを果たしたこのバンドは、Gt.Voを担当する安納想とGt.Drs.choを担当するトヨシからなる2人組ユニットである。

 ”Elsewhere”、「どこでもない場所」という言葉を冠する彼らの音楽には、明確な目的地があるわけではない。それでも彼らの音楽に耳を傾けていると、いつの間にかどこかへと連れていかれてしまう、そんな錯覚を覚えることになる。しかし、たどり着いたその場所からは、確かに現実から少し距離を置いたあたたかさを感じるのである。本編では、そんな「どこでもない場所」へと続く彼らの魅力を、いくつかの視点からたどっていきたい。

▷ ”魔改造シティポップ”の革新性

彼らの音楽において重要なワードの一つに「魔改造シティポップ」というものがある。この言葉に表されるように、エルスウェア紀行の楽曲からは洗練された都会感と、ブラックミュージックや歌謡曲をルーツに持つ音楽性、そしてそれらを大胆に組み合わせて「魔改造シティポップ」として再構築するだけのセンスと技術を感じる。特に筆者がそれを感じたのは、「少し泣く」という楽曲である。

エルスウェア紀行「少し泣く」MusicVideo / Elsewhere Kikou – Sukoshi Naku (gonna cry a bit)

幻想的なイントロで幕を開け、キレのあるギターリフで聴き手を一気に惹きつける。そして優しさを感じるサビもう一度深く心をつかむ。シティポップの洗練された質感とロック的な躍動感、さらに予測不可能な展開を同居させたこの楽曲からは、「魔改造シティポップ」の魅力がひしひしと伝わってくる。

▷メンバーの豊かな個性

前述のとおり、エルスウェア紀行はGt.Voの安納想とGt.Drms.Choのトヨシからなる音楽ユニットである。2人という少ない人数で豊かな音を奏でる彼らだが、そのメンバーにも我々を惹きつける大きな魅力がある。エルスウェア紀行を語る上で欠かせないのが、Vo.安納想の歌声だ。

 彼らの曲を聴くときに、必ず耳に残るのはVo.安納想の「泣きボイス」である。彼女のどこか泣き出しそうな雰囲気のある声の持つ独特の透明感、耳心地の良さは楽曲に唯一無二の華を与えてくれている。そして彼女の歌声の魅力のもう一つは、「様々な楽曲によって聞こえ方が変わること」だと筆者は考えている。

エルスウェア紀行「ひかりの国」MusicVideo

エルスウェア紀行「冷凍ビジョン」OfficialVideo Elsewhere Kikou – REITOU VISION

この二つの曲は曲調が大きく異なり、「ひかりの国」は優しくゆったりとした曲調、「冷凍ビジョン」はシックでテンポの速い曲調になっている。後述するが、こういった幅広い楽曲も彼らの魅力の一つである。歌声に話を戻すと、「ひかりの国」の時の歌い方は、吐息を多く活用した非常に柔らかなものとなっている。対して、「冷凍ビジョン」の時の歌い方はどこか冷たく、緊張感のある歌い方に聞こえる。様々な曲調の中で、それぞれ違った性格を見せる彼女の歌声は、彼らの楽曲がリスナーの心をつかんで離さない一因であるといえる。

 もう一人のメンバーであるトヨシも個性豊かな人物だ。前述のとおりトヨシの担当パートはギター、ドラムス、コーラスである。ここだけ聞くと果たしてそれらの楽器を同時にプレイするのは物理的に可能なのか?と情景がイメージしづらい方も多いに違いない。実際、トヨシ氏はギターとドラムのどちらも堪能なようで、彼らの代表曲である「鬱夢くたしかな食感」のMVでは、ドラムとギターをそれぞれで演奏する姿を見ることができる。

エルスウェア紀行「鬱夢くたしかな食感」MusicVideo / Elsewhere Kikou – Melancholy Texture

 ただし、サポートメンバーを加えない2人編成のライブでは、ギターを弾きながら足でドラムを演奏する、通称「足ドラム」を披露するトヨシ氏を見ることができるという。その凄さは文字だけではなかなか伝えきれない。機会があれば、ぜひともライブ会場で確かめてほしい。

▷終わりに

安納想の唯一無二の歌声、トヨシの独創的なプレイスタイル。そして型にはまることのない楽曲。エルスウェア紀行は一度聞いただけで、忘れられない音楽体験を与えてくれる。普通の音楽に飽きた人も、そうでない人も。優しい音楽が好きな人も、激情的な音楽が好きな人も、彼らは平等に魅了するのである。今注目の音楽ユニット「エルスウェア紀行」。これからも目が離せない。

▷エルスウェア紀行

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